18.「どうしようもないことさ」 花&薫
 
 
       「いい加減にしなくちゃ」
 
       「もうちょっとだけ、もうちょっとだけだから、さ」
 
       何度言っても動こうとしない薫さんに呆れたため息が零れる。
 
       世間一般では恋人達の祭典であろう今日も、私にとっては変わらぬ日常。
 
       薫さんだってお仕事の日…のはずなんだけど、数時間前に帰ってきた彼はちっとも職場に戻
 
       る気がないらしい。
 
       理由はベビーベッドでお休み中の息子、なの。
 
       秋を、文字通り目の中に入れても痛くないくらいかわいがってる薫さんは、数少ないオフに
 
       は付きっきりで、そうでなくてもちょっとした空き時間を見つけては帰って来ちゃうのよね。
 
       一緒にお仕事してる人たちにどれだけ迷惑かけているかと思うと気が気じゃいんだけど、私
 
       なんかの言うことは聞いてくれないから困っちゃうわ。
 
       「可愛いよな…なぁ、秋連れて仕事行ったら…?」
 
       「ダメ」
 
       これもいつもの会話。
 
       わかってるくせに聞いてくるんだもの。手がかかる子供を連れて行けるわけないじゃない。
 
       「どうしてそう、無茶ばかり言うの」
 
       拗ねた顔で秋に恨み言を並べている薫さんに、つい苦笑が出た。
 
       自分だって邪魔になるのわかってるくせに、そんなにまでして秋といたいのかしら。一度ち
 
       ゃんと聞いてみたいと思っていたの。
 
       「だって、こいつ連れてけば花も付いて来るだろ?」
 
       と、予想外の返事と共にぎゅっと私を抱きしめた薫さんがいる。
 
       「え、あの…」
 
       「秋も可愛いけどさ、俺は花といたいんだよ。一分一秒を惜しんで、ずっと」
 
       「それって…」
 
       「どうしょうもないだろ?」
 
       だから、無茶を言うんだとキスで教えてくれる彼が、あのまま失うところだった彼が、ここ
 
       にいることを私は誰に感謝すればいいんだろう。
 
       大切な、宝物を、ありがとう、と。
         
       「そんなん、サンタにでもいっとけよ」
 
       仕事のことなどすっかり忘れた薫さんに運ばれながら囁かれ、思い出す。
 
       そう、今日はクリスマスだったわね。
 
       数年分のプレゼントを今年はいっぺんにもらったから忘れてたわ。
 
       「メリークリスマス、薫さん」
 
       「ああ、メリークリスマス」
 
       サンタさんはやっぱりいるのね。
 
       貴女の上にも、ハッピークリスマス…。
 
 
 
 
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