13.「ありがとう、ごめんなさい」 ハルカ&夏来
 
 
       首筋から鎖骨へと、滑るように唇が降りていく。
 
       「え?…あっ」
 
       押しのけようとのばした手をやんわりと囚われて、あたしの体は重力に沿って床へとくずお
 
       れた。
 
       …どうしてこんなことに、なっちゃったんだっけ?
 
       さっきまで二人だけのクリスマスを、小さなケーキと一杯のグラスワイン、そして数個のキ
 
       ャンドルで演出して楽しんでたはずなのに。
 
       とぎれた話題、そして久しぶりのキス。いつもならその後見つめ合うと、他愛のない話して
 
       笑って、会えずにいた時間を埋めることに忙しい。
 
       けれど、今日は。
 
       呼吸が苦しくなるほどの口づけは、刺激に頭がかすむまで繰り返された。くたりと力の抜け
 
       た体を抱き留めた工藤さんは、忙しなく動きながらあたしの衣服をはぎ取っていく。
 
       抵抗を封じて、抗議を聞かぬふりで。
 
       「やっ」
 
       背を反らせて体を捩っても、逃げ出すことはできない。重い上体が、離されることのない手
 
       首があたしを床に縫い止めてしまっているから。
 
       その間にはだけたワンピースの襟元に工藤さんの指が忍び込んで、肌を乱暴にはい回る。
 
       「やだ、やだ、やめてっ!んっ…!」
 
       合わさった唇からは、少しアルコールが香ってそれが一層あたしの意識を曇らせた。
 
       「やだ…工藤、さん…」
 
       涙が溢れたと気づいたのは荒々しい動きが全て消え、暴れる必要も訴える必要もなくなった
 
       からで、
 
       「ごめん…」
 
       かすかな呟きを残して工藤さんはごろりと隣に転がると、表情を隠すように腕を顔に乗せて
 
       しまう。
 
       「ごめん、ホントに。少し酔ってたみたいだ。いつもなら我慢できるのに、しばらく会わな
 
        いうちにハルカちゃんまたキレイになってて、忙しくてろくに会えない現状じゃ誰かに獲
 
        られるんじゃないかって恐くなって、押さえが効かなかった」
 
       少し困った声と、いつもの余裕が全然見えない工藤さんて、初めてかも知れない。
 
       大人だと、思ってた。調子に乗ってあたしがくっつきすぎても、もっととキスをねだっても、
 
       やんわりかわしてしまうから、我慢してるなんて思ってみたこともない。
 
       でも、今、工藤さんはこっちを見てくれなくて、そっと漏らされたため息は、長く、深くて。
 
       静まりかえった部屋の中しばらく逡巡したあたしは、薄い唇にそっと口づけを落とす。
 
       見えないからなにされたかわかんなかった、なんて言われないよう上唇を軽く噛んで。
 
       「ハルカ、ちゃん…?」
 
       驚いて半身を起こした工藤さんに、投げ出すよう体を預けた。
 
       不意打ちにもかかわらずしっかり抱き留めてくれた恋人を見上げ、去年までの自分だったら
 
       照れて口にできなかったに違いないセリフを、紡ぐ。
 
       「すっごく恥ずかしいし、やたら月並みなんだけど、プレゼントはあたしって言ったら、引
 
        く?」
 
       耳の奥でうるさい鼓動が工藤さんの返事をかき消してしまわないよう、耳を澄ましてその大
 
       好きな顔を見つめ、小さな変化に固唾をのみ。
 
       見開かれていた瞳が柔らかな弧を描き、ちょっと開いていた唇が引き締められて口角を上げ
 
       る。
 
       「スタンダードなプレゼントほど、人を喜ばすモノですよ」
 
       きしむほど抱きしめられた痛みは、幸せな痛み。
 
       我慢させてごめんなさい。待っててくれてありがとう。
 
 
 
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