俺の一日は、凪子に起こされることから始まる。
 
        そら、男のロマンとしては優しゅうキスで『おはよ(ハートマーク)』が理想なんやけど
 
        な、現実は厳しい。
 
        携帯、目覚まし、ステレオの大音量不協和音に、
 
        「起きてくれないなら、出てくから!」
 
        ってな脅しが日常や。
 
        「…おはよ、凪ちゃん。今日は講義午後やて言うといたやろ?もうちょい寝かしてくれて
 
         も…」
 
        「い・や。せっかく作ったご飯が冷めちゃうもん」
 
        「ほんなら起こしてんか?1人じゃよう起きられへん」
 
        「ぜーったい、いや。その手に引っかかって何度学校遅刻したと思ってるの?」
 
        そら、お前が可愛ええのがいかんのや。必死に引っ張って俺を起こそうとしとる姿見たら
 
        ベッドに押し倒さずにおらんでおけんやろ。
 
        いやいやテーブルに着いた裸の上半身に、凪子が真っ赤になって抗議するんで機嫌はよう
 
        なった。
 
        そうかぁ、何度見ても慣れんくらいまだ好きなんやな。うん、ええことや。
 
        恋人のいない退屈な午前をダラリと過ごして、大学へ。
 
        「京介、もう少し優しくできない?」
 
        まとわりつく女共をおざなりにあしらった直後の小林の談。
 
        「無理に決まっとる。俺は凪子一筋なんや」
 
        なんでいらん愛想を振りまかなならんのや。笑顔も甘い顔も、アイツ以外に見せる気なん
 
        ぞない。
 
        「でも、アレじゃ彼女たちが可哀想だ。ちょっと前まで誰にでもへらへらへらへら節操な
 
         く対応してたんだから、ギャップについていけないだろ?」
 
        「へらへら言うなや。立派な処世術のひとつやろ」
 
        「…そうな、入れあげた女の子達が身の回りの世話からノートのコピーまでしてくれるっ
 
         てのは確かに便利だ」
 
        頷きつつも顔が呆れてるのはなんでや。
 
        「でも、凪子ちゃんは平気で人を利用するお前を軽蔑するんじゃない?」
 
        「他の女と仲良うする俺も嫌うで?」
 
        卑怯にも痛いとこを突いてきよったが「北条さんの周りは綺麗な女の人いっぱいだから…」
 
        って寂しそうに笑う凪子を想像してみぃ。あ、胸が痛とうなってきた。
 
        「京介は冷血だっていいつけようかな」
 
        …なんでこいつ、そうまで連中の味方をしようとすんねん。理由…ほほう、興味深いこと
 
        書いてある掲示板があるな。
 
        「試験近いから言うて、俺を介してノートをせしめようなんざ、甘いな」
 
        「そんなつもりじゃ…」
 
        「おこぼれにだいぶあずかっとったもんな、お前」
 
        「人間助け合いが必要じゃないか」
 
        「かすみちゃんのメアド、知っとるんやけどなぁ」
 
        「…悪かったよ」
 
        やっとゲロしよったか。人の恋仲危険に晒してまで単位取得にかけようとはええ度胸や。
 
        その心根、しっかと記憶しとくからな、なんかあったらこれをネタに脅したる。
 
        とまあ、他の連中なら手玉にとるんも容易い。俺が不利になるようなことは滅多ない。
 
        だが、例外はおるんや。
 
        親父やろ、おかんやろ…
 
        「北条さんの、バカ!」
 
        ふくれっ面しとる、凪子。
 
        「そう怒りな。アイス買ったるから」
 
        「いらない!子供扱いしないで」
 
        時間が空いたんで迎えに行った彼女が、男と笑い合っとったら牽制するやろ?
 
        なんもないわかっとっても、おもろないやろ?
 
        「機嫌直してぇな、反省しとるさかい」
 
        覗き込んでも凪子の歩みは止まらない。ずんずん怒りに任せて商店街を早足で抜けるんや。
 
        「きっとまたやるもの。校門でキスするなんて、人いっぱい見てるのにちっともやめてく
 
         れないなんて、すっごく恥ずかしかったのに!」
 
        うん、まぁ…おんなじもん見たら繰り返すやろな。
 
        ホントは凪子に看板つけたいくらいやから。俺の名前書いて、所有権を主張したいんやか
 
        ら、しゃあないやろ?
 
        「なーぎちゃん、ほんま悪いと思ってます。許して?」
 
        背後から抱きしめて機嫌を取るのに、そら激しい抵抗で腕から逃れた彼女が涙目で叫びを
 
        上げた。
 
        「ちっとも反省してない!人目があるところでベタベタしないで、北条さんなんか大っ嫌
 
         い!!」
 
        …どないしよ、完全にへそ曲げてしもうた…。
 
        走り去る背中を慌てて追い掛けながら、恋ってやっかいやと再確認。
 
        一生、凪子には勝たれへん気がするわ。この愛しさが消えて無くなることはないからな。
 
 
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