京介の複雑でもなんでもない心境3
 
 
         勝手が違うな、思うたのはなかなか手ぇ出されへんことよりタイミング、やろな。
 
         キスするんでも、部屋に誘うんでも、自分のしたいようにしてた今までと違うて凪子の気持ち
 
         を優先に考える。すると、ここぞという瞬間を計れんようになってしまうんや。
 
         「北条さん?」
 
         例えば、こんな具合に。
 
         ちっちゃなソファーにべったりくっついて座って、ムードはバッチリやろ?けど、肩を抱く、
 
         そっから先に行くには怯えさせんように細心の注意が必要で、いつや?いつや?とやってるう
 
         ちに外す訳や。
 
         今なんぞ期待を込めて見つめてくる凪子の気持ちに、俺が気づけんやったと。泣けてくるな、
 
         ほんま。
 
         「なんや?もう、眠い?」
 
         しかし、何より高いのが男のプライド。そうとは気づかせんように余裕の笑みでごまかした一
 
         言に明らかな彼女の落胆は、嬉しい変化言おうか、可愛い娘がしょうもない男に染まってしま
 
         ってお父さん哀愁っちゅうか…。
 
         「…眠くないもん、まだ全然平気だもん」
 
         けど、ほっぺた膨らましてそっぽ向く様はやっぱりお子様やから、かわええなぁ思いながら、
 
         まだまだ先に進むんは早いなぁと己を戒める。
 
         男はどうしたって、好きな子ぉに触りたいもんや。そら、体と心がバラバラな生きもんだとも
 
         言われとるしな、やりたいだけなんやろ言われると上手い言い訳考えつかんのが辛いとこや。
 
         せやけど質が違う、ちゅーかなぁ…抜くだけなら正直誰でもええねん。風俗のおねえちゃんで
 
         も、同級生でもたちさえしたらできるし。触るんも胸やら腰やら…セックスに直結する場所を
 
         望むわけや。
 
         長い髪を乱して甘い香りに溺れたり、ちっさな手握るだけで苦しなったり、抱きしめるだけで
 
         満ち足りてしまったりはせん。
 
         「ん、けどもう帰らな。日が沈んでしまう」
 
         柔らかな唇に触れるだけのキスを、こんだけで満足してしまう俺を見たら、今までの女達は怒
 
         り狂うのか笑い飛ばすのか。自分ではケダモノから人へ進歩した気分なんやけどな、さて。
 
         「まだ、帰んない!」
 
         少なくともこんな俺は凪子には不評らしい。
 
         うっすら涙を浮かべて怒りに紅潮した彼女は、勢い込んで胸ぐらを掴むと不満の叫びを上げた。
 
         「我慢しないって言ったのに、どうして子供扱いばっかりするの?キスだってあの夜の一回だ
 
          け。お夕飯の前には家に帰そうとするし、抱きしめてもくれない」
 
         やってお前、抱きしめたらキスしたくなるし、キスしたらその先が欲しくなる。苦しい男性心
 
         理を理解して…は無理やろな。
 
         この顔はきっと『北条さんがなんにもしないのは、あたしに魅力がないから』とか思うとって、
 
         『好きだって言ったのは傷つけちゃ気の毒だって、その程度の感情』なんて自己完結しとるに
 
         違いない。
 
         一週間前に逆戻り、キレイさっぱり巻きもどっとる。すごいなぁ恋に未熟で己に自信がないか
 
         らか?それにしたって若い子は、行動=感情のおかしな方程式ができすぎや。
 
         …数年前までは俺もこんなだった…ことはないな。もっと冷めとった。
 
         凪子の問いに答えるには、実際動いてみんのが一番や。
 
         無謀かな、とも思うが一応の揺さぶりでわからんかったら、論より証拠、見せたってもええか
 
         なぁ?
 
         「抱きしめたら、キスすんで?舌絡めて、口ん中じゅう舐め回して、そのまま押し倒してもえ
 
          えの?さすがにここですんのは気の毒やし、奧には連れてったるけど途中ではやめん。ちゅ
 
          うか止まらん。お夕飯どころか今夜帰れる保証もなくなるけど、構わんのやな?」
 
         それは噴き出しそうな欲望。
 
         生憎と俺は女を知っとる。純情可憐なお嬢さんとも、純粋無垢なお坊ちゃんとも違うて、セッ
 
         クスが気持ちええもんやと体験しとるんや。
 
         好きやのうても得られる快感を、惚れた相手と共有するんはどれほどのもんか。いつだって抱
 
         き潰したいほどに愛しい想いを、全身で表現したら少しは疼きがとれるんやろか。
 
         抱きたい、ダキタイ、繋がりたい。
 
         ささやかな想像の世界で夢だけ見とるお前は知らん。今の俺には余裕なんてないんやってこと、
 
         盛った小僧のように勢いだけで凪子を抱いてしまいそうな、予感さえしていることを。
 
         案の定、顔色を失うた彼女はソファーから転げ落ちるほど後じさり、慌てて抱き留めた腕の中、
 
         怯えた小動物の如く暴れている。
 
         「ダメ!ダメダメダメ!やっぱりダメぇ〜!抱きしめなくていい、キスもいらない……エッチ、
 
          なんてもっといらない〜」
 
         全拒否かい…。それはそれでいややなぁ…。
 
         この先いつ来るかわからんチャンスをじっと待つのは、そら辛いけど、凪子と恋すると決めた
 
         時に覚悟はしとったからな。
 
         亀の歩みになるんやろうけど、この子とおりたい、ってな。
 
         「しゃぁないな」
 
         自嘲で歪んだ唇からため息に掠れた囁きを落として、華奢な体をそっと抱きしめる。
 
         「え、やだ!抱きしめたらキスなんでしょ?その先でしょ?!」
 
         パニックを起こして藻掻く体を力ずくで押しとどめて、笑った。
 
         「これはノーカウント。凪子止めとるだけやからな、キスもせんよ」
 
         「……ホント?」
 
         疑い深い彼女の額にキスを。
 
         「嘘つき。キス、したじゃない」
 
         「…これをキス言うようでは…先は長いなぁ?」
 
         「むぅ、失礼ね!」
 
         子供のように膨れる癖が取れるまでは、無理やろな。なんや、子供を誘惑してる気分や。
 
         さて、日が暮れる前に送ろうか。
 
         のそりと立ち上がって、車のキーを鳴らしても凪子は文句を言わなかった。
 
         恐怖が不安に打ち勝った、ところやろな。
 
 
 
闇の正面  闇小説  
 
 
           短めに、付き合いだしてすぐの2人を書いてみたり。
           京介が、ヘタレに見える?(笑)     
 
         
 
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